「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」(以下、国際脳)は、世界の国家的プロジェクトとの連携を強化し、我が国の、ひいては世界の脳科学研究の飛躍的な発展に貢献することを目的として、平成30年6月より開始されました。
脳科学研究は、脳の発達障害・老化の制御や、精神・神経疾患の病因解明及び予防・診断・治療法の開発を可能とするとともに、失われた身体機能の回復・補完を可能とする技術開発をもたらし、医療・福祉など国民生活の質の向上に最も貢献できる研究分野の一つです。また、そこで見いだされた脳の計算原理は現在の人工知能(AI)のアルゴリズムに応用されるなど、その成果は広く社会に適用されています。
海外では大型の脳科学研究を国家プロジェクトとして行うことが具体化されつつあります。米国では、平成25 年(2013 年)4 月にBRAIN Initiative(神経疾患や精神疾患の克服に向けて、脳細胞からのシグナルをより早く、多く記録するためのツールを開発し、新しい展開につなげる10 年計画のプロジェクト、BRAIN = Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)が発表され、欧州では平成25 年(2013 年)1 月にHuman Brain Project(ICT 統合基盤研究プラットフォームをコアとして、データ取得、理論、応用コンピューティング、倫理の5 つのサブプロジェクトからなる、ICT を用いて脳の理解を目指す10 年計画のプロジェクト)がEU フラッグシッププロジェクトに採択されるなど、脳科学の大型研究プロジェクトが実施されています。その他の国でも国家プロジェクトとして活発な研究開発が実施又は計画されています。脳の作動原理の解明や精神・神経疾患の早期発見・早期介入の実現、新たな脳型アルゴリズムの開発という今後の脳科学における世界共通の目標を達成する上では、各国が実施している大型プロジェクトの特徴を活かしつつ、相互の緊密な協力が不可欠となっており、国際的な枠組み(平成28 年2 月開催のG サイエンス学術会議共同声明、平成28 年5 月開催のG7伊勢志摩サミット首脳宣言付属文書、等)においても脳科学研究における国際連携の重要性が認識されています。
我が国の脳科学研究が国際競争力を維持しつつ発展するとともに、世界の脳科学研究の発展にも貢献していくためには、戦略的に国際連携を推進することが求められています。そこで国際脳では、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)で推進されてきた他の脳科学研究事業(脳科学研究戦略推進プログラム、革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト等)や、世界の国家的プロジェクトとの連携を強化します。そして、健常から疾患に至る脳画像等の総合的解析、AIによる脳科学技術開発、ヒトと非ヒト霊長類動物との神経回路比較研究を推進することで、人間の心を生み出す知性、感性や社会性などのしくみを神経回路レベルで解明し、精神・神経疾患の早期発見、早期介入に導くことを目指します。