個別研究
先進的個別研究開発課題
本研究は、これまでげっし類にほぼ限られてきた、目的ニューロン種選択的な操作・計測を、ヒトに近縁なモデル動物であり、感覚・運動・認知などの様々な脳機能やそれらを支える神経回路に関する知見が集積されている、サル類(特にマカクサル)に適用できる遺伝子ターゲッティング手法を開発し、それを実用的なレベルで確立することを目的とします。また、本研究では開発したベクターを利用して、霊長類における特定ニューロン種選択的な活動操作・活動測定や、特定ニューロン種選択的な遺伝子導入によるモデル霊長類の作製法の開発、などの応用研究を実施します。
慶應義塾大学
理工学部 准教授
高密度脳波(EEG)に対してAI技術を活用した脳情報デコーダを構築し、患者間で大幅に異なる脳病態や回復過程の差異を人工知能が適応的に吸収可能なニューロフィードバック技術(NFB)を開発する。また、治療標的として選定した脳領域の機能的MRI信号をEEGから高精度に再現する RNN+CNN型AIフィルタを構築し、メディカルグレードの脳活動情報を頭皮脳波から再構成する技術の確立に挑戦する。以上により、AIを活かしたEEG-NFB基盤技術を創出し、難治性の神経原性運動障害に対する機能回復の可能性を拓く。
2017年よりRNAをターゲットとした化学修飾の機能を明らかにする「エピトランスクリプトーム」という研究分野が新たに提唱された。私たちは刻々変化する周囲環境に瞬時に応答できるシナプスでのRNA修飾に注目し全ゲノム解析をした結果、シナプスにおけるメチル化RNAには、ヒト中枢神経系の発達および精神疾患に関与するものが数千含まれており(Nat Neurosci, 2018)、その機能とメカニズムの詳細解析が神経科学や精神医学に大きく貢献する可能性が示唆された(Neuron, 2018)。本研究開発では、シナプスにおけるRNA修飾の「多様性」と「機能」の解析を迅速かつ正確に行い、脳機能の発達および精神疾患との関連性を一刻も早く解明することを目指す。
本課題の目的は、パーキンソン病(のマクロ神経回路異常の解明を目指して“先端的MRIとネットワークサイエンス・Artificial Intelligence(AI)を用いたマクロ神経回路評価法を確立すること”です。
近年、PDの多彩な臨床亜型に対応するプレシジョン・メディシンが必要と考えられ、その多彩な臨床亜型の神経回路基盤の評価法が求められています。そこで本課題では、全脳の先端的定量MRIデータ解析、ネットワークサイエンス、AIを利用した神経回路評価・特徴量抽出手法を立案し、PDの多彩な臨床症状及び遺伝子情報との連関を解明する手法の開発を行います。
名古屋大学
大学院医学系研究科 特任助教
脳神経系は部位毎に機能や、構成する細胞、制御する神経伝達物質が異なっています。一方、多くの精神神経疾患治療薬は、その標的分子こそ明らかになっているものの、作用する脳部位やどのような作用機構で疾患を改善しているかについては未だよく分かっていません。そのため、現在の治療薬を改良したり、新しい治療薬を開発することは非常に困難です。
本研究開発では、精神神経疾患治療薬が脳内で引き起こすリン酸化シグナルを脳領域毎に包括的に解析するとともに、リン酸化シグナルの操作を行うための光遺伝学的手法を用いて疾患モデルマウスのリン酸化シグナルを操作し治療薬の効果を再現します。これにより治療薬が作用する脳部位や、症状を改善する作用機序を解明します。
神戸大学
大学院システム情報学研究科 助教
本研究開発は、多施設・異なる装置で収集された機能的磁気共鳴画像(fMRI)データセットの高精度比較および定量的評価を可能にするための技術開発を目標とする。この目標の実現に向け、まず前臨床MR装置に対し、装置由来の画像全体の歪みや撮像に用いるコイル由来の信号値ムラ,ならびにMRI高速撮像法であるEPI法による画像取得時に生体由来で生じる歪みを較正するための較正ファントムならびにアルゴリズムの開発を行う.また撮像法・パラメータを最適化しつつ、従来困難であったfMRI計測に定量性を賦与する技術開発を行う。さらにヒト対象fMRI計測への展開のための基盤技術開発に取り組む。
慶應義塾大学
医学部 専任講師
近年のイメージング質量分析の高感度化により、脳内のセロトニン、ドパミン、ノルエピネフリンといったモノアミン神経伝達物質の局在可視化が可能となった。これらのモノアミン神経系の投射、シナプス接続に関しては記述があるが、実際に回路上のどこにモノアミンが偏在しているか、またそれらの動的な変動に関しては知見が少ない。本研究プロジェクトにおいては、高感度イメージング質量分析により、モノアミンの時空間的偏在を全脳横断的に可視化する。さらに、向精神薬(selective serotonin reuptake inhibitor, SSRI)の長期投与時のセロトニン代謝に焦点を当て、イメージング質量分析による「SSRIが高度に蓄積する神経核の同定」と、「その局所におけるセロトニン代謝」をイメージングにより明らかにし、新たな創薬標的となる脳部位同定を目指す。
理化学研究所
脳神経科学研究センター 研究員
脳神経系に多数の体細胞変異が生じていることが近年報告されており、精神疾患を説明する因子として有望である。本研究は、双極性障害を中心に、患者試料から体細胞変異を検出し、疾患に対する体細胞変異の寄与を明らかにする。病態への意義を解明するとともに、脳部位ごとの体細胞変異を解析する病理学的な手法を確立することが目的である。体細胞変異の検出は、エクソン領域のDNA分子を数百以上読み変異割合を検出する方法(高深度エクソームシークエンス)を用いる。双極性障害患者試料から、発生初期体細胞変異や脳神経系に特異的な変異を検出し関連脳部位の解析を行い、双極性障害の病態理解に貢献する。
これまでの報告(Sakurai 2007, Niwa et al. 2018)によりオレキシンもしくはアセチルコリンシステムが遺伝学的に慢性阻害された変異マウスが、覚醒の維持すなわち眠気の発生において相反する異常を示すことがわかっている。本研究では、眠気の発生源は拮抗的に調節されるモノアミンシステムの調和(モノアミンアンサンブル)であるという作業仮説にもとづき、これまで形の見えなかった眠気の実体を多様なモノアミン神経細胞集団が調和の中から生み出す性質と捉え、遺伝学的にその責任細胞を均一に絞り込み、絞り込まれた責任細胞の遺伝子発現特性および電気生理学的特性から客観的に検証することを目指す。
東京大学大学院薬学系研究科
講師
タンパク質が異常なアミロイドを形成して細胞内に蓄積する細胞内封入体は、様々な神経変性疾患の原因と考えられています。そのため疾患治療戦略として、このようなアミロイド形成の抑制と除去が考えられます。本研究では、光によって活性化しアミロイドに対して直接的に酸素修飾する光酸素化触媒を開発し、この触媒を用いてアミロイドを酸素化して、アミロイド形成抑制と除去に対する薬効を検討することを研究目的としています。本研究を通し、神経変性疾患治療におけるアミロイド酸素化の意義を明らかにします。
機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)は、精神・神経疾患の早期発見・早期介入に繋がる最有力な基盤技術である。とりわけ安静状態の被験者における自発的脳活動計測(安静時fMRI)はマクロスケール脳回路を調べる基本技術になっているが、未開発の技術的課題も多く残されている。特に、霊長類の多様な機能マップ構造がどの程度まで自発的神経活動の空間パターンに反映されているかは良く分かっていない。そこで本研究では、機械学習を活用してマーモセット大脳皮質の自発的神経活動から局所機能モジュールを抽出する解析手法を開発する。
神経難病の代表疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭型認知症(FTD)に共通した病態を有する遺伝子異常として、C9orf72遺伝子の異常な繰返し配列が注目されている。この遺伝子異常から産生される毒性ポリペプチドによって、膜を持たないオルガネラの機能異常が引き起こされる。また、その分子機構がlow-complexity(LC)ドメインによる液-液相分離(LLPS)であることも明らかになってきた。本研究を通じて、ALSやFTDを含む多くの神経変性疾患の理解および治療法の開発につながることが期待される。