山下歩らATR脳情報通信総合研究所、広島大、東大、昭和大、京大、京都府立医科大学の研究グループは、機能的磁気共鳴画像(fMRI)データについて、異なった施設で取得した脳画像データを調和させ、均質なデータとする方法(=ハーモナイゼーション法)の開発に成功しました。またATR・田中沙織室長、広島大・岡本泰昌教授らは、この開発に用いられたデータを含む、多施設で多疾患の数千人規模の脳画像データをデータベースとして整備し、その一部を登録者に対して公開しました。
近年、生物医学、心理学などの分野において、論文で発表された結果が再現出来ないことが指摘されています。特に、1施設で撮像された数十人程度のfMRIデータに人工知能技術である機械学習法を適用して得られた結果は、他の施設では再現できません。この問題を解決するには多施設から集めた多数の脳画像データが必要ですが、計測した施設によってデータの性質が異なるという、極めて困難な問題がありました。米国Human Connectome Projectでは一つの施設から多数の脳画像データを集めて、施設間差の問題を避けていましたが、世界中のどの施設でも再現可能な結果を得るためには、施設間差を解消する必要があります。
山下らは、fMRIに有効なハーモナイゼーション法を開発し、施設間差を3割程度減らしました。まず、9人の被験者が12施設を訪れて撮像し、全部で411サンプル取得しました。この旅行被験者データと、複数の施設から集められたデータ(9施設4疾患の被験者805人から1サンプルずつ805サンプル取得)の両者を組み合わせたデータセットに、施設の違い、疾患による変容などを推定する数学的なモデルを当てはめて、測定方法の違いによる脳画像の違いのみを除去するハーモナイゼーション法を開発しました。本研究は、生命科学の分野で権威のあるPLOS Biology誌で、論文で発表された結果の再現性に関する問題などで注目を集めているmeta-researchというセクションの論文として掲載されます。
また、本研究で使用した多施設・多疾患で収集された大規模データ(総数2,409例)を世界的にも貴重なデータベースとして構築しました。このうち、研究参加者から同意を得ている1,828例のデータについて、参加者の個人同定が行われないように十分に配慮した上で、登録した研究者に対して所定の審査を行ったのちに利用可能となる形で公開を始めました。
https://bicr-resource.atr.jp/decnefpro/
リソースページでの紹介記事はこちらです。
今後は、上記のハーモナイゼーション法を公開した脳画像データなどに適用して、施設によらずに使える精神疾患の脳回路マーカなどを、世界に先駆けて開発して、精神疾患と発達障害の診断補助及び治療補助に貢献していきます。
【プレスリリースはこちら】
https://www.atr.jp/topics/press_190419.html
Harmonization of resting-state functional MRI data across multiple imaging sites via the separation of site differences into sampling bias and measurement bias.
DOI : 10.1371/journal.pbio.3000042
Ayumu Yamashita, Noriaki Yahata, Takashi Itahashi, Giuseppe Lisi, Takashi Yamada, Naho Ichikawa, Masahiro Takamura, Yujiro Yoshihara, Akira Kunimatsu, Naohiro Okada, Hirotaka Yamagata, Koji Matsuo, Ryuichiro Hashimoto, Go Okada, Yuki Sakai, Jun Morimoto, Jin Narumoto, Yasuhiro Shimada, Kiyoto Kasai, Nobumasa Kato, Hidehiko Takahashi, Yasumasa Okamoto, Saori C. Tanaka, Mitsuo Kawato, Okito Yamashita, and Hiroshi Imamizu
PLOS Biology